オンライン授業
ヨーロッパ・アメリカ文明特殊講義D/ヨーロッパ文明特殊講義D

第10回/動植物と異形の世界(後半)           

5.その他さまざまな異形の世界                           
さて「後半」ではロマネスクのキリスト教会に現れる
さまざまな異形の世界をランダムに挙げていくことにします。
これらについての正しい解釈とか意味づけは、残念ながらありません。
深い神学的な意味がありそうなものから、何が何だか分からないものまでいろいろです。
何か深い意図があったのか、それとも単なる遊び心で表現したのか。
彫刻した人の考えも、今となってはよく分からないものばかりです。


サタン(悪魔)
サタンは地獄の使者として、人間に対してさまざまな悪事を行います。
またあの手この手で人間を「誘惑」しようとします。
そしてそうした「誘惑」に負けて悪事を働くと、待っているのは地獄落ちです。
サタンは一人でも多くの者を地獄へ落とそうとします。
左はブルゴーニュ地方ソーリューのサン=タンドッシュ教会の柱頭彫刻、
右は同じくブルゴーニュ地方ヴェズレーのサント=マドレーヌ教会の柱頭彫刻です。
特に右のヴェズレーのものは有名です。髪の毛を逆立てながら人間に接近してきます。


 
Basilique St-Andoche, Saulieu(2004.8.8)     Basilique Ste-Madeleine, Vézelay(2004.8.12)

 
                  Basilique Ste-Madeleine, Vézelay(2018.9.24)


◆ケンタウロス(仏:Centaure/英:Centaur)
ギリシア神話に登場する半人半獣(下半身が馬、上半身が人間)の生き物・種族です。
ケンタウロス族は戦いにおいてしばしば弓矢や槍、棍棒を使うとされます。
「異端」の象徴として扱われます。半人半獣と同じく、異端はどっちつかず、
あるいは両極端な教義を持っていることが多いからであるといいます。
中世キリスト教では偽善と肉欲を象徴するともされました。
左のサン=パリーズ=ル=シャテルのサン=パトリス教会(ニエーヴル県)の
ケンタウロスの横にはカメがいます。右の写真は「フクロウ」のところでも紹介したものです。

 
Église Saint-Patrice, Saint-Parize-le-Châtel, Nièvre    Église St-Pierre, Aulnay(2009.8.24)
             (2018.9.25)


◆ドラゴン(竜)
翼と脚を持つ空想上の怪物。世界各地の文明にはドラゴンの神話や図像が豊富にあります。
旧約聖書の『創世記』でイヴ(エヴァ)を誘惑するヘビと同類です。
悪を象徴し、しばしば大天使ミカエルと戦って退治されます。
ドラゴンが教会の内外に彫刻される意味もあまりよく分かりませんが、
「悪いことをするとドラゴンがやって来て懲らしめられるよ」といった
戒めを見るものの目に焼き付ける役割があったのかも知れません。
 
St-Génis-des-Fontaines(2005.3.20)            Église Ste-Foy, Selestat(2010.8.12)


Église St-Patrice, St-Parize-le-Chatel(2018.9.25)

下の写真は、フランス中西部ヴィエンヌ県のショヴィニーにあるサン=ピエール教会で、
その内陣部に並ぶ柱の柱頭彫刻です。
ここの柱頭には、奇妙キテレツな空想世界がこれでもかと言うくらい繰り広げられています。
両側からドラゴンに噛みつかれた裸の人物が、ペロリと舌を出しているものもあります。
下の3枚目の写真の動物も意味不明です。
ウロコのようなものがある長い首の上には頭巾をかぶったような人面が付いています。
一説によるとスフィンクスだとか。でもよく分かりません。
 


Église St-Pierre, Chauvugny(2009.8.26)


◆グリーンマン(植物を吐く人)
口や鼻から植物のツルを吐き出す人面を「グリーンマン」と呼びます。
「グリーンマン」は、古代の墓碑などにしばしば彫刻された
大洋の神「オケアノス」の図像に由来すると言われています。
「オケアノス」は死と再生に関連する存在で、それと樹木信仰が結びついたとも言われます。
自然の持つ生命を生み出す力のシンボルであるとも言えます。
下のディジョン(Dijon)のサン=ベニーニュ教会地下クリプトのものは、かなり不気味です。
口から吐いたツルが頭の上で葉になって広がっています。
キリスト教が広まる以前の古いヨーロッパの深い森の奥にいた森の精のような感じです。
あまり夜歩いていて会いたくはないですね(笑)。

 
Musée du Louvre, Paris(2019.3.18)            Église St-Reverien(2018.9.24)

 
Église St-Reverien(2018.9.24)             Crypte de St-Benigne, Dijon(2003.3.14)


◆楽器を演奏するロバ
ロバは金持ちや支配者たちの乗り物であると同時に貧者の乗り物でもあります。
イエスはロバに乗ってイェルサレムに入城しました。従順と柔和の象徴とされることもありますが、
概してマイナスのイメージを表すことが多く、ワガママ、強情、知性の欠如、精神的な怠惰、愚鈍、
怠惰、肉欲、快楽などのシンボルともなります。時には男性の肉欲を表すとも言われたりします。
ハープなどの楽器を演奏するロバは「琴を持つロバ」(Âne à la lyre)とも言います。
その意味はあまり明確ではありません。
 
Église St-Pierre, Aulnay(2009.8.24)          Église St-Nectaire, St-Nectaire(2009.8.13)


◆ヘンな生き物たち
キリスト教の教義などでは、もはや説明が不可能な生き物たちも教会の内外に彫刻されています。
これを残した彫刻師たちはいったい何を思ってこれらの作品を残したのでしょうか?
 
                  Saint-Martin de Chambonas(2007.3.15)

 
Abbaye de Cadouin(2009.8.20)              人頭鳥。Charlieu(2018.9.28)

 
              
Église de Saint-Julien-du-Serre(2013.3.13)


◆ユニークな(ヘンな)顔 
人間の顔や動物の顔は星の数ほど、教会の内外に彫刻されています。
中にはよくわけの分からないユニークな、と言うか、ヘンな顔が多数あります。
以下、ズラズラと並べておきます。
  

  

  

  

  
                               
三重に重なった怖い顔
  
                               
顔ではなくお尻。何の意味が?



本日は以上です。
12月15日(火)は授業のアップロードはありません。
次回は12月22日(火)です。
http://languedoc.nn-provence.com/ にアクセスして下さい。

★今回は、出席調査を兼ねて、小コメントを提出していただきます★
第8回~第10回の授業の内容について、自分がその中で一番印象に残ったことや、重要だと思ったことは何か、そしてそこに、できれば自分の意見や感想なども付け加えて、300字以上~400字くらいまでで書いてメールで提出(送信)して下さい。
ワードなどのファイルを添付するのではなく、メール本文に直接書いて下さい。
メールのタイトルには、必ず授業名、学生証番号、氏名を書いて下さい。
例えば次のようにして下さい。
 (例)メールタイトル「特殊講義/5BPY1234/東海太郎」
提出(送信)締切りは、
12月20日(日)の22時までとします。
メールアドレスは、nakagawa@tokai-u.jp です。



□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
【今回の授業の参考文献】
饗庭孝男『世界歴史の旅/フランス・ロマネスク』山川出版社、1999年。
饗庭孝男『ヨーロッパ古寺巡礼』新潮社、1995年。
馬杉宗夫『ロマネスクの美術』八坂書房、2001年。
越宏一『ヨーロッパ中世美術講義』岩波書店、2001年。
越宏一『ヨーロッパ中世美術史講義・中世彫刻の世界』岩波書店、2009年。
尾形希和子『教会の怪物たち ロマネスクの図像学』講談社選書メチエ、2013年。
櫻井義夫・堀内広治『フランスのロマネスク教会』鹿島出版会、2001年。
柴田三千雄・樺山 紘一・福井 憲彦ほか編著『世界歴史大系/フランス史1・先史~15世紀』
辻佐保子責任編集『世界美術大全集7/西欧初期中世の美術』小学館、1997年。
辻本敬子・ダーリング益代『図説ロマネスクの教会堂』河出書房新社、2003年。
中森義宗『キリスト教シンボル図典』東信堂、1993年。
長塚安司責任編集『世界美術大全集 西洋編8・ロマネスク』小学館、1996年。
柳宗玄『柳宗玄著作選4・ロマネスク美術』八坂書房、2009年。
柳宗玄・中森義宗編『キリスト教美術図典』吉川弘文館、1990/1994年。
アンリ・フォション『ロマネスク彫刻・形体の歴史を求めて』
                       辻佐保子訳、中央公論社、1975年。
アンリ・フォション『西欧の芸術1・ロマネスク』上下巻、
                       神沢栄三ほか訳、鹿島出版会、1976年。
エミール・マール『ヨーロッパのキリスト教美術』上下巻、柳宗玄・荒木成子訳、1995年。
エミール・マール『ロマネスクの図像学』上下巻、田中仁人ほか訳、国書刊行会、1996年。
ハインツ=モーア『西洋シンボル事典-キリスト教美術の記号とイメージ』
              野村太郎・小林頼子監訳、八坂書房、2003/2007年。
BENOIT, Fernand, L'Art roman en France, Provence, Flammarion, 1961.
BLANC, Anne et Robert, Monstres, Sirènes et Centaures. Symboles de l'art roman,
                          Éditions du Rocher, 2006.
BONVIN, Jacques, Dictionnaire énergétique & symbolique de l'art roman,
                          Mosaïque, 1996.
BORG, Alan, Architectural sculpture in Romanesque Provence,
                          Oxford University Press, 1972.
DÉCENEUX, Marc, La France Romane. Une architecture éternelle,
                         Éditions Ouest-France, 2000.
DE LA MALÈNE, Pauline, Atlas de la France romane, Zodiaque, 1995.
DELAMARRE, Barbara, Architecture des Églises Romanes, Éditions Ouest-France, 2015.
DEMUS, Otto, Romanesque mural painting, Harry N. Abrams, 1970.
DENIZEAU, Gérard, L'art roman, Nouvelle Éditions Scala, 2010.
DESCHAMPS, Paul, French sculpture of the Romanesque period.
              Eleventh and twelfth centuries
, Hacker Art Books, 1972.
DESCHAMPS, Paul & THIBOUT, Marc,
    La peinture murale en France. Le haut moyen âge et l'époque romane, Plon, 1951.
DROSTE, Thorsten, La France romane, Les Éditions Arthaud, 1990.
ERLANDE-BRANDENBURG, Alain, L'art roman. Un défi européen, Gallimard, 2005.
GABORIT, Jean-René, La sculpture romane, Hazan, 2010.
LOUBATIÈRE, Jacques, Bible de l'art roman. 286 chefs-d'œuvre de l'art roman en France,
                          Éditions Ouest-France, 2010.
OURSEL, Raymond, France romane. 2 vols, Zodiaque, 1989.
OURSEL, Raymond, Floraison de la sculpture romane. 2 vols, Zodiaque, 1973.
STRAFFORD, Peter, Romanesque churches of France. A Traveller's Guide,
                          Giles de la Mare Publishers, 2010.
THIBAUD, Robert-Jacques, Dictionnaire de l'art roman, Éditions Dervy, 2007.
TOMAN, Rolf, L'art roman, architecture, sculpture, peinture,
                        h.f.ullmann publishing GmbH, 2017.
VERGNOLLE, Eliane, L'art roman en France, Flammarion, 2005.
VERGNOLLE, Eliane, L'Art monumental de la France romane, Le XIe siècle,
                            The Pindar Press, 2000.
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
















中川研究室ホームページ/TOPページへ